COLUMNE

衝突する輪郭

date created : 2024.8.14

white by : doukin

今日、アヴァンギャルドということばはしばしばそれに適さないものごとを形容することに使われている。いまやわたしたちはその本来の意味ではなく、まるでエレベーターホールにただよう湿気臭い空気のような美辞麗句のひとつとして理解しているに過ぎない。

だがこのオメガは真にアヴァンギャルドだ。
ブレスレットとシームレスに繋がるケースはどこか時代感を欠遺した工業製品のような趣きを見せながらも、優雅な印象の楕円を描いている。
ダイヤモンドを敷き詰めた文字盤は八角形に縁取られ、バーハンドが浮かぶ。ケース/ブレスとのコントラストを描くことでわたしたちの視線を集めるのだ。

いくつもの対照的な印象が層となってこの時計の魅力を形作っている。硬質でありながらたおやかで、優雅でありながら歪で、未来的だが埋葬品のようでもある。そしてそれらは、ダイヤモンドがわたしたちに抱かせる感覚そのものだ。この最も優れた宝石を配することによりこの時計は傑作となった。

つまり、大粒のダイヤを戴くことで、衝突するいくつもの相反する印象は、時計として成立し、それらの輪郭をぼやかしていくのだ。いわばこのダイヤは、シャネル No.5におけるアルデハイドだ。

見るたびに印象を変える、とらえどころのない魅力。つまり、この時計はほんとうの意味での女性らしさを持っている。