COLUMNE

幻視された理性

date created : 2024.8.27

「ニュートン記念堂」計画案 – 1784

フランス革命前夜に描かれた特異なこのスケッチは、絶対王政末期から革命の時代にかけて活躍した建築家、エティンヌ・ルイ・ブーレーによるもの。彼はこうした実現不可能な巨大な建築案を多数遺し、「幻視の建築家」とも呼ばれる。

この時代、フランスの王や貴族たちの放蕩に次ぐ放蕩、そしてそれを象徴するかのような官能的なバロック建築は否定された。そしてより啓蒙の時代にふさわしい厳格な建築、いわゆる新古典主義建築がその反動として生まれることになるのだ。

ブーレーの建築案も、新古典主義の流れをくみ、ひとの理性によって崇高さを追求せんとする啓蒙思想的な発想のもとに描き出されている。

記念堂内部。高さ150mのドームは宇宙を表し、天球儀が象徴的に配される。

このスケッチは、ニュートンと祖の偉業、つまり世のことわりを露わにした理性の崇高さへのブーレーからの賛美にほかならない。

圧倒的なスケールと、極端なまでに単純な幾何学図形とシンメトリックな構図。整然と紙上に現れたモノクロームの崇高さは、新たな時代の建築を夢想するという気迫を感じさせながら、どこかみるものを不安にさせる。

その不安とは、動乱の時代の苦しみ、つまり秩序の破局は避けられず、もはや啓蒙の光に追いすがるほか未来はないという”むなしさ”が巻き起こすものではないか。

超然と理性を体現するように佇む記念堂。その周囲には不自然な連続性で植えられた糸杉が並び、巨大なドームには大きく影がかかる。崇高さを巧みにひきだしながらも、醸し出される死のイメージ……いや、むしろ崇高さとは、死の印象によってこそ顕れるのだ。

彼は意図せずか、革命の時代から今の時代にまで流れ続ける、近代の通奏低音としての理性主義のあやうさ、崇高さのためのいけにえとなったなにがしかまでをも、幻視していたのかもしれない。