COLUMNE

死の舞踊

date created : 2024.8.28

white by : doukin

歴史の中で、しばしば人々は迫りくる恐怖を忘れるために、踊りにその身を任せた。

たとえば、80年代のディスコカルチャーは、東西冷戦によって迫りくる核の脅威なくして存在しえなかった。苦しみから逃れるため、あるいは苦しんでいるからこそ、わたしたちは踊りに興じるのだ。

この版画に描かれているような踊る骸骨たちは、「死の舞踊」と呼ばれている。14世紀以降、ヨーロッパの芸術に繰り返し登場するテーマだ。

ヨーロッパで巻き起こった教会の分裂、百年戦争、そしてペストの大流行という動乱が、その登場の背景にあると言われる。有名な、”メメント・モリ”の警句と呼応するかたちで現れたこれらの絵には、生の虚しさが、滑稽なまでに痛々しく描かれる。

絵の中では、貴族や市民、王や聖職者までもが等しく骸骨の姿をとって死に導かれ、踊りながら墓に向かって行進していく。

示唆に富んだこの絵図は、突きつけられた現実に対する人々の困惑と恐怖を表しながら、そこに開き直ったような態度のユーモアを重ねている。

「死の舞踊」は、文化というものがいかにしたたかであるかをわたしたちに教えてくれる。どんな危機が生活の景色を変えても、人の営みは最後まで絶えることがない。文化は恐怖を咀嚼し、人々に受容させるちからなのだ。