COLUMNE

エメラルド・シティ

date created : 2024.9.9

white by : doukin

“鐘を叩け! 悪い魔女は死んだ!”

ジュディ・ガーランドは、映画「オズの魔法使い」でそう歌いながら、全てが緑色に輝く魔法のまち、神秘的なエメラルドの都に凱旋する。

歴史のなかで、エメラルドは幻想に満ちた印象とその物語とともに語り継がれていた。

12世紀の言い伝えでは、ヘルメス・トリスメギストスという伝説的な錬金術師が、錬金術の奥義をエメラルドの板に刻んだという。その写しと言われる文献は、ニュートンをはじめ、知的な探求に励む人々の間で尊ばれた。

現存する例では、ジェノバのサン・ロレンツォ大聖堂に飾られているサクロ・カティーノがある。直径50cmほどの六角形の皿は、深い緑色で、かつてはエメラルド製だと信じられてきた。シェバの女王がソロモン王に送り、キリストの最後の晩餐で使われたと言う言い伝えもある遺物だ。

それでは、数々の伝承で、神秘と幻想と共に語られるエメラルドの魅力は、どこにあるのだろうか。

まず、鉱物としての豊かな表情があげられるだろう。エメラルドの結晶のほとんどは、インジェクションを含んでいる。産地によってさまざまな表情で現れる地球のいぶきからは、宝石が長い年月をへて育まれた、壮大なスケールを感じることができる。

そして、エメラルドの一番の魅力はなんと言ってもその豊かな緑の色彩だ。濃淡や透明度によって1つひとつ異なる静穏な緑の色あいには、ルビーやサファイアにはないやわらかな印象がある。

エメラルドの緑について、古代ローマの博物学者プリニウスは、もてる言葉のすべてでこうたたえている。

「他のどの色とくらべても、目にとってこれほどやさしいものはない。草や緑の枝を我々はよろこびと共に見る。しかしエメラルドを見るときには、何物にも比べようがない深い緑により、限りない歓喜に包まれる。さらに、エメラルドは目を疲れさせることなく楽しませてくれる唯一の宝石である。目の使い過ぎで疲れた時には、エメラルドを見ることで目の疲れが回復する。宝石職人にとって、このおだやかな緑のかがやきによって与えられる救いほど効果が高いものはない。」

権力者や、探求を志す者たちに、瞑想的なひとときの癒しを与え、歴史のさまざまな場所で神秘性を持って言い伝えられてきたエメラルド。

『オズの魔法使い』の終盤、エメラルドの都の主、全てを叶える力を持つと言われていたオズの大魔法使いは、実際にはただの人間だったことが明かされる。

この作品のテーマのひとつは、信じる力だ。これまで人々を騙してきた彼は、その「魔法」で主人公ドロシーの仲間3人が望んでいたものを与える。もちろん、実際にはそれらはまやかしに過ぎないが、「魔法」を信じている3人は、望みを叶えたと大喜びした。

現実においても、エメラルドに歴史上で語られてきたような非現実的なちからがないことは、当然皆の知るところだ。だが実際にこの穏やかな緑の宝石を身につければ、この宝石が歴史のなかで神秘とともに語り継がれ、愛されてきた理由を知ることができるだろう。

事実以上に、何を感じ、何を信じるのか。時には、心から湧き上がる感情に素直に従うことが重要な意味を持つ。エメラルドのかがやきに、あなたはどんな物語をみつけるだろうか。